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広島高等裁判所 昭和60年(行コ)6号 判決 1991年10月24日

昭和六〇年(行コ)第六号事件控訴人、同第七号事件被控訴人

広島県地方労働委員会

(以下、一審被告という。)

右代表者会長

山根志賀彦

右指定代理人

秋山光明

皿谷邦彦

沖山裕宣

久田克好

一橋道明

一審被告補助参加人

出版労連第一学習社労働組合

右代表者執行委員長

高瀬均

一審被告補助参加人

榊敏正

昭和六〇年(行コ)第六号事件控訴人補助参加人

小林道子

真田孝子(旧姓井上)

竹丸光子

児島文信

児島真知子

志茂登美子(旧姓藤谷)

右補助参加人ら訴訟代理人弁護士

阿左美信義

相良勝美

坂本宏一

昭和六〇年(行コ)第六号事件被控訴人、同第七号事件控訴人

株式会社第一学習社

(以下、一審原告という。)

右代表者代表取締役

松本清

右訴訟代理人弁護士

開原真弓

田辺満

国政道明

右当事者間の不当労働行為救済命令取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一  一審被告の控訴に基づき、原判決中一審被告敗訴部分を取消す。

右取消に係る部分の一審原告の請求を棄却する。

二  一審原告の控訴を棄却する。

三  訴訟費用(参加によって生じた分を含む)は、第一、二審とも一審原告の負担とする。

事実

一  当時者の求めた裁判

(昭和六〇年(行コ)第六号事件)

1  一審被告

(一)  原判決中一審被告敗訴部分を取消す。

(二)  右取消に係る部分の一審原告の請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は、第一、二審とも一審原告の負担とする。

2  一審原告

(一)  一審被告の本件控訴を棄却する。

(二)  控訴費用は一審被告の負担とする。

(昭和六〇年(行コ)第七号事件)

1  一審原告

(一)  原判決中、一審被告が広労委昭和五〇年(不)第三号事件について昭和五二年四月一三日付でなした不当労働行為救済命令の取消を求める請求に対する判決部分を取消す。

(二)  一審被告が広労委昭和五〇年(不)第三号事件について、昭和五二年四月一三日付でなした不当労働行為救済命令を取り消す。

(三)  訴訟費用は、第一、二審とも一審被告の負担とする。

2  一審被告

(一)  本件控訴を棄却する。

(二)  控訴費用は一審原告の負担とする。

二  当事者の主張

次のとおり主張を訂正し、追加補充するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一九枚目裏末行(本誌四六七号<以下同じ>85頁1段7行目「命令」)から同二〇枚目表一行目(85頁1段7行目)までを次のように改める。

「三 一審被告の抗弁

本件各救済命令の前提たる事実関係はすべて原判決別紙第一及び第二の命令書に認定、判断したところと同一であるが、右事実によれば、一審原告(以下、「会社」ないし「一審原告会社」ともいう。)が一審被告(以下、「地労委」ないし「一審被告委員会」ともいう。)補助参加人ら(一労を除く)に対してなした行為がいずれも労組法七条一号の不利益処分に該当すると判断し一審被告が発した原判決別紙第一及び第二の各命令は適法である。」

2  一審被告の追加、補充主張

一審原告が、新基本給の導入にあたって旧基本給の受給者を新基本給表上にランク付けをするについては、丸岡智恵子と対比されている短大卒のBの査定を受けた者(二二才女子)の職務内容からみると、学歴よりも個々人の勤務年数等の経験や才能、技能等の査定諸項目を勘案してランク付けをするのが一審原告会社の事業内容としても合理的である。しかも、一審原告会社は、現実に実践しているかどうかは別として、査定に当たっては能力主義を採用しているとの主張に終始しているにもかかわらず、丸岡智恵子に限っては、新基本給表の適用に際して、同一B査定者の中でことさら外型的な学歴差を考慮してランク付けをしたというのは、一審原告会社の主張とも矛盾する。

したがって、丸岡智恵子に対してのみ学歴差を考慮してランク付けし、新基本給を決定したのは、同女が一労の組合員であることを決定的な理由とした不利益取扱いであって、労組法七条一号の不当労働行為に該当する。

3  一審被告補助参加人らの追加、補充主張

(昭和六〇年(行コ)第六号事件関係)

一審被告が、新基本給の導入に際して、従来の従業員と同一または、それ以上の旧基本給であった丸岡智恵子の新基本給を当該他の従業員と比較して二五〇〇円低額に認定したことは別紙のとおりである。同表によれば、一労の組合員でないQやTと対比すれば、丸岡の新基本給は六万二五〇〇円となるべきところ、六万円と決定されている。

一審原告は、丸岡智恵子の学歴が高校中退であるため、新基本給の導入に際しては、短大卒の者より一ランク低く格付けをしたもので右格付けは合理的である旨主張する。

しかし、従来、一審原告会社の旧基本給の下では、短大以下の学歴の女子従業員については、学歴の差異に基づく職務体系、内容の区別はなく、従って給与の差異はほとんど認められず、採用に際しても、学歴による差別はされず、むしろ本人の能力、職務内容をみて職種、賃金が決められていたもので、現に丸岡智恵子は、図版書きとかトレース等の美術関係の才能を評価されて採用されたものであり、採用時に学歴が異なるQやTとの賃金上の差別はなく、またその後の職務内容にも何らの変化もなかった。

しかも、丸岡の勤務成績の査定はBであるから、新給与表の導入に当たって、その格付けを同じB査定であるQやTより低くする理由は全くない。

更に、一審原告は、昭和四九年に新基本給制度を導入し、これを新規採用者以外の既に採用されている従業員に適用するについて、<1>学歴毎に初任給を定めて一定の勤務年数ごとに増額する新給与表をそのまま適用する方式、<2>新給与表と新賃金傾向値表を用いる方式及び<3>旧基本給プラス役付手当てプラス四〇〇〇円の合計額に一〇〇分の一二四を乗ずる方式の三つの方式を採用し、中途採用者については、第二の方式(この方式は中途採用者に有利)で、役職者については第三の方式(この方式は役職者に有利)で計算するのを原則としていたところ、丸岡智恵子については、第二の方式で計算すれば同女の新基本給は六万二五〇〇円となるはずであるにもかかわらず、殊更役付手当てがない非役職者には不利な計算方式である第三の方式によって計算し、同女の新基本給を六万円と決定した。

従って、丸岡智恵子は新基本給を旧基本給においては同額であったQやTより一ランク低く格付けしたことについては、合理性は全くなく、一審原告が、学歴差を理由に同女を一ランク低く格付けしたというのは全くの口実にすぎず、その決定的理由は、同女が当時一労に所属していたためにほかならない。

よって、同女に対する新基本給を六万円とした決定は、労組法七条一号の不利益取扱いとして、不当労働行為に該当するから、一審被告が昭和五二年二月一九日付でした不当労働行為救済命令はすべて適法である。

4  昭和六〇年(行コ)第六号事件関係についての一審被告らの補充主張に対する一審原告の認否ないし反論並びに昭和六〇年(行コ)第七号事件についての一審原告の追加、補充主張

すべて争う。昭和四八年から昭和四九年にかけては、いわゆるオイルショックにより諸物価が非常に高騰した時期であり、一審原告会社においても、昭和四八年秋に結成された二つの労働組合即ち一労と全労から、昭和四九年度の定期昇格及びペースアップについては相当大幅な賃上げ要求がなされていた。一審原告会社においては、従前は人事考課規程に則り所定の人事考課表により査定をなし、従業員代表との間で合意した結果に基づき、各従業員の賃上げ額を決定していたものであるが、二つの労働組合が結成されたことを踏まえ、各従業員の賃上げ額をより客観的、公正に決定するため、新給与表と中途入社者の賃金及び賃上げ額をより合理的に認定するための年令及び勤続年数別賃金傾向指数表を作成したうえ、二つの労働組合と団体交渉を重ねたところ、全労との間では、昭和四九年五月一一日に、旧賃金額を新給与表にあてはめるについては、旧基本給と役職年数と一律四〇〇〇円との合計額に一〇〇分の一二四を乗じ、これに考課査定によりプラスあるいはマイナスをし、さらに一律五〇〇円を加えた額とする合意が成立した。すなわち、一応算出された額について考課査定をすること、右方式により算出した金額については端数が生ずるが、その算出額を新給与表の直近の給与額にあてはめて新賃金額を決定すること、男子中途入社者で新給与表を適用する場合にこれを是正する合理的必要性がある者(女子についても同じ)については、年令及び勤続年数別賃金傾向指数表を併せて適用する旨の合意がなされた。丸岡智恵子の所属する一労との間では容易に合意が成立しなかったが、昭和四九年一二月に至って、一審被告委員会のあっせんにより、全労と同一の基準で昭和四九年四月より賃上げする旨の労使協定が成立した。

そうして、丸岡智恵子は、廿日市高校中退の学歴であり、一審原告会社には昭和四八年九月に入社した中途入社社員であるところ、同女の昭和四九年四月からの新賃金を協定どおり計算すると五万九五二〇円となるところ((4万4,000+4,000)×124÷100=5万9,520)、同女の考課査定はBで標準考課査定者であったため、プラス、マイナスの査定をせず、そのまま直近の新給与表にあてはめ六万円としたものであって、何ら不当差別ではない。一審被告らは、丸岡智恵子の新賃金額は全労所属の短大卒の林敏子(二一才入社二年目)と比較して二五〇〇円の差があり、右較差は一労組合に所属することを理由とする不当差別である旨主張するが、林敏子は、右のとおり短大卒で、短大卒の初任給は新給与表上六万円と設定されているから、入社二年目の同女は当然六万二五〇〇円となるもので、何ら差別ではない。短大卒と中卒とで給与上多少の差を設けることは何ら不合理ではないから、仮に旧基本給において差がなかったとしても、新たな給与体系を適用するについて右程度の較差を設けたとしても、何ら不当なことはない。

(昭和六〇年(行コ)第七号事件関係)

(一)  榊に対する出勤禁止処分について

(1) 一審原告は、教科書、副教材、学参図書等の出版会社であって、文部省の検定を必要とする教科書はいうまでもなく、副教材及び学参図書等の出版物についても、生徒及び受験生を対象とすることから、その内容が充実しているのは勿論のこと、その形式についても誤りのないことが強く要求されているのである。

而して、榊は昭和四九年七月頃から「フレッシュエイジ」の国語問題の編集を担当していた者で、その編集にはかなりの経験を積んでいるから、経験不足からミスを生じうる余地の全くないこと、昭和五〇年六月号のフレッシュエイジでは、第三回、第四回分の国語の問題について著者原稿に基づいていずれも問題、解説、考え方、解答の順序で割付を行っていたのであるから、第四回分の考え方についてのみ割付を欠落して発注することは考えられないこと、しかも割付を欠落すれば、作業者の手元に割付欠落分の原稿が残るのであるから、第四回分の国語問題の「考え方」三か所、各二十数行延べ一ページ以上の割付を欠落しながら直ちに気付かない筈はないこと等の事情を考え合わせると、榊の犯した割付欠落ミスはまことに重大で、同人が故意に欠落したのではないかと考えられるほどであって、編集作業の過程において通常生ずる校正上のミスと到底同一には論じ得ない。

また、割付欠落を発見したのが印刷発行直前であったため、一審原告は、その訂正は勿論のこと、原稿欠落部分を加えた上発行予定ページ数内にまとめるため、問題を生じた国語の編集担当者のみならず、他教科の編集関係者らの他の作業予定を変更させてこれを招集し、ミスの修正及び対策にあて、また、印刷所に、発送予定期日に間に合うよう、特急料金を支払って印刷をすることを余儀なくさせた。このように、榊の犯したミスにより、同人は、同僚、上司に非常な迷惑を掛けたばかりでなく、購読者への発送も二、三日遅延するのやむなきに至ったのである。

(2) また、フレッシュエイジ等の問題の原稿は、高校又は大学の先生で、教育現場の事情に通じ、学識経験も深い者に受講者のレベルを説明して一審原告が依頼したものであって、問題作成者が永年の経験と教育者としての責任において作成したものであるから、買取り原稿であるかどうかを問わず、誤字、脱字等の明白な誤りを除いては、たとい一編集作業者がその内容に不適切な点があると考えた場合があっても、問題作成者の同意なくして一編集作業者が勝手に著者原稿の内容の改変等をすることが許されないことは、いやしくも一審原告会社において編集に携わる者の常識であり、この点については、一審原告が日頃編集要員に周知徹底しているところである。従って、榊の原稿改変行為が上司によって発見されて事前に訂正、処理されたからといって、榊の規律違反はまことに重大であって懲戒解雇に該当する行為であるといわなければならない。

(3) また、榊の非違行為に対する始末書要求の就業規則上の根拠としては、その五七条において制裁(懲戒処分)の一つである譴責の内容として「始末書をとり将来を戒める」と定めているほか、明文の規定はないが、しかし、使用者が経営秩序を維持し、職場規律を保持する権限を有することはいうまでもないから、就業規則上明文の規定がなくても、従業員がその業務遂行に際して懲戒処分に至らない職場規律違反等の不始末を犯した場合に、当該従業員に対して事実の顛末の報告をさせ、自己の非を明確にし、今後の再発なきを期するため文書の提出を命ずることは当然許されるところである。従って、就業規則の規定は、懲戒処分に該当する場合を含めて、一般的に従業員が職場規律違反の不始末を犯した場合に使用者たる一審原告が当該従業員に対して始末書の提出を命ずる根拠となるというべきである。

従って、榊に対し右の意味の始末書の提出を命じたのに同人がこれを提出しないのは、業務上の指示命令に違反した(就業規則五六条一二号)ものといわざるを得ない。

(4) 右のとおり、一審原告が榊を四日間の出勤禁止処分にしたのは、まことに同人に就業規則違反の行為があったからであり、榊の組合活動の故をもってした不利益取扱いに当たらないことはいうまでもない。

(二)  榊の総務部製版室配転について

(1) 会社が榊を昭和五〇年五月一四日より総務部製版室に配転したのは、同人は、出版部編集課及び通信教育部指導課で国語を担当していたが、しばしばミスを繰り返し、「フレッシュエイジ」の組版割付に際し三か所、延べ一ページ余の原稿を欠落させる重大ミスを犯し、また著者原稿について勝手に二か所にわたり改変するという編集作業者としてあるまじき行為に及んだためであり、同人の上司の橋本係長・崎重係長から編集担当者としては能力的に不適格で責任ある仕事を任すことはできないとの申出がなされたためである。すなわち、一般に編集作業は、編集担当責任者の指示の下に多くの編集作業者が各部分を受持って作業に当たるもので、一冊の本を仕上げるには大勢の手を経る共同作業であるため、ミスの発生は不可避と言える。従って、編集担当責任者は校正を通じミスの発見に努め、ミスが発見された場合には修正する外、ミス原因を追及し、編集作業者に対してミス原因を指摘して同様の過ちを繰り返さないよう注意、指導している。

このように編集作業が共同作業であり、一人のミスは他に著しい影響を及ぼし、編集作業も円滑に進行しない事態となることから、初歩的ミスを繰り返し、改善の余地がない者がいる場合、編集作業から排除しなければならず、編集担当責任者たる上司は当然配転を求めざるを得ないし、会社としても配転申出があれば当然配慮せざるを得ない。

会社としては、編集作業者が犯した一、二回のミスを問題としているのではなく、上司の注意・指導にかかわらず初歩的ミスが何ら改善されることなく、繰り返されることを問題視しているのである。

而して、榊の犯した割付原稿の欠落のミスは編集業務上一般に避け難いある程度のミスに止まらない。そればかりか、著者原稿の改変は編集作業者としての初歩的かつ基本的ルールを忘れ、同人の独断と偏見をもってした著者無視の記述内容の改悪であって、単なるミスと同列に取り扱うことはできない。

右のとおり、日常、上司として榊の指導・監督に当たった橋本係長・崎重係長が榊のミスの多いことに堪り兼ねて同人の配転を申し出た事実及び前記の原稿欠落並びに著者原稿の改変は、榊が入社後数年の編集業務の経験を持ちながら初歩的ミスを繰り返し一向に改善されない事実及び編集作業者として基本ルールすら守れない事実を裏付けるものであって、それが故に、編集業務に不適格と判定され配転されるに至ったものである。

右のとおり、会社としては、榊が編集業務については能力的に不適格であることが明確になったため、総務部製版室に配転したものであり、榊の配転は業務上の必要性と正当な理由が存する。

従前編集上のミスで配転になった者はいないというが、会社は従来から、ミスの多い者、編集の適性のない者は営業部門等に配転してきたが、人事管理上特にミスが多いからという指摘をして配転した例はないだけである。榊の場合は処分あるいは配転を争うから、その理由を明確にすることになったのである。

(2) 会社の通信教育事業は昭和四四年頃受験生数が急激に伸びたことから、コンピューターを導入して処理することになり、電算室のチーフに瀬下係長を据え榊を補助者とした。榊の入社は昭和四四年であるが、一年前からアルバイトとして通信教育添削業務に従事していて通信教育業務のプログラミングに役立つものと期待されたし、当時会社においては役職者は少数で、組織構成の上から昇格の必要があり、同人は年令も高かったので昭和四五年の四月班長に昇格させたに過ぎず、特段他より優れていたわけではない。しかし、榊は電算室勤務当時もミスを犯して、能力的に問題があることを次第に露呈するに至り、編集業務に就いても初歩的ミスが改善されることなく繰り返され、遂には原稿欠落や著者原稿改変の事態を発生させるに及んだものである。

(3) 右のような次第で、本件配転は榊の組合活動とは何等の関係もない。同人がミスが多く全く改善されないため、上司が一々点検を必要とし編集作業を責任もって任せられないことから、同人を引き取る職場がなく、会社としては止むなく総務部製版室所属としフイルム修正等の業務を命じたものであって致し方のない事態である。

右フイルム修正等の業務につき、榊の社歴・経験年数に照らして正当な処遇とは言い難いとする考え方もあろうが、処遇に対する評価或いは判断は、嘗って会社に対して貢献があった者について言えることであって、榊の如くいたずらに社歴・経験年数を重ねながら各職場でしばしばミスを犯し能力的にも問題ありとされる者について論ずることは当を得ないのみならず、これを配転の当否判断の根拠とすることは間違いも甚だしい。会社としては、能力・適性に応じた職場・職種に配置するのが当然で、榊をミス発生の危険を冒してまで編集作業に就けなければならない理由や義務はない。榊が犯した編集業務上のミスは明確で、同人に対する配転は、その理由並びに必要性において欠けるところはない。

本件配転が遠隔地への配転や異業種への配属の場合であれば、榊の組合活動の故をもってした不利益取扱いに当たるとしても、ある程度理解できるが、殆ど勤務場所も移動せず、同一業務の範囲内での配転であるから当然是認されるべきものである。

5  一審被告補助参加人の昭和六〇年(行コ)第七号事件関係の一審原告の追加補充主張に対する反論及び同事件関係についての追加主張

(一)  会社の懲戒処分の不当性

(1) フレッシュエイジ割付の欠落ミスは、榊自身が印刷、出版前に気付いて上司に謝罪の上補正がなされているのであり、本人の落ち度は大きいものではない。一審原告会社においては、同種のミスで、印刷製本され読者の手元に届けられた後まで発見されず、正誤表やお詫びの文書まで出して訂正した事例が過去数多くあり、これらのミスは榊のミスに比して会社に与えた損害ははるかに大きいものがあるのに、これらのミスに対して担当者が始末書提出を求められたり、懲戒処分を受けた例はない。一審原告は、同じ手順を繰り返す中でのミスであって、新刊本の編集作業上での間違いと不注意の度合いが異なるというが、版を重ねたテキストの明白なミスであっても、これらのミスが懲戒処分の対象とされたり、編集業務について不適格であるとして配転を行った例は皆無である。従って、後記のとおり、本件懲戒処分及び配転処分は、榊が一労に属していることを理由にしてなされた不利益処分であることは明白である。

(2) また、本件原稿を含めて、会社の通信教育部の問題、解答は、著者からの買取原稿であり、買取原稿については、従来から、著者の原稿の趣旨、内容を全く変更してしまうというものでない限り、表現の訂正を含む原稿の加除、訂正は、一々上司の許可を得ることなく、編集担当者の裁量で自由に行われてきたところであるから、本件原稿の表現訂正程度の原稿の書き替えは、何ら就業規則違反となるものではない。従って、右行為を理由とした懲戒処分は、就業規則上の根拠もなく、榊が一労に属することを理由に、就業規則違反に藉口してなされた不利益処分であることは明白である。

(3) 更に会社は、始末書提出は会社の慣例となっていたものであり、使用者としては、就業規則上の定めの有無とは関係なく、職場規律を保持する権限の一環として、業務命令として始末書の徴求をなしうる旨主張するが、就業規則上の根拠がない以上、仮にその命令に反して始末書を提出しなかった場合に懲戒処分に処し得ないことはいうまでもない。

仮に始末書の提出をすべき旨の業務命令が正当だとしても、本件以前に編集作業上のミスに対して始末書提出が求められた例は皆無であった。ところで、一審原告は榊の校正上の些細なミスをとらえて始末書の提出を求めたことを契機として、その後一労に所属する組合員の業務上の些細なミスをとらえて始末書の提出を強要し、その提出に応じない者には、処分、配転を行い、会社役員や職制の長時間のつるし上げによる執拗な始末書の提出の強要によりやむなく始末書を提出した者は、耐えられずまもなく退職に追い込まれている。これらの事実に徴しても、編集現場における一労組合員のミスを探し出して始末書を要求し、その不提出に対して業務命令違反だとして懲戒処分を課することが、一労の弱体化を狙い、その組合員であることを理由とした不利益処分であることは明らかである。

(二)  会社の不当労働行為意思の存在

(1) 昭和四八年九月一六日に一労が結成されたが、一審原告は、一労が上部団体の出版労連に加入することを嫌悪し、出版労連から脱退させることに失敗するや、一審原告は、昭和四八年一一月四日に御用組合である全労を結成させ、一方で一労所属の組合員を嫌悪し、一労の活動を弱体化する目的で、本社と営業所等との労働条件の著しい較差を懲罰的、報復的な配転に利用し、一審原告が嫌悪する一労所属の組合員を本社から排除し、労働の態様、時間からして組合活動が困難な営業所等に配転し、これを拒否する者には報復的に事務職と職種を異にする倉庫、コピー室など肉体労働的業務に再配転し、組合を弱体化しようとした。

また、一労の活動に対しては、組合の要求を受け止め団交によって解決することなく、組合活動を行った組合役員、執行委員らに対する譴責、出勤停止等の懲戒処分を濫発した。

これら一審原告が一労及びその組合活動を嫌悪し、あらゆる手段をもって組合の弱体化を図ろうとしている態度に照らして、榊に対してなされた本件懲戒処分及び配転命令が、労組法七条一号の不利益処分として不当労働行為に該当することは明らかである。

(2) 榊に対する一審原告の攻撃

(ア) 榊は、昭和四八年九月の組合結成と同時に執行委員に選出されて以来、同年一一月には書記長、本件懲戒処分及び配転処分当時は副委員長であった。榊は、入社直後は通信教育部において国語を担当し、その後会社にコンピューターが導入されると、そこに配転され、通信教育の受講者の成績評価システムを開発、担当し、他の社員に比べて極めて早い昇格をしていた。

ところが、一労が結成されるや、会社は一労を嫌悪し、人事、会計、電算室には組合員がいるのは望ましくないとの口実で当時組織率一〇〇パーセントであった電算室から出版部編集課へ配転され、昭和四九年には、通信教育部に配転されたものである。

(イ) 榊は、昭和五〇年五月八日付で総務部製版室勤務を命ぜられたが、実際には製版室ではなくコピー室に入れられ、製版の業務(ネガフィルムの修正)や従来社外に外注していた通信教育部のダイレクトメールの社名書きやコピー室の仕事である印刷や雑用等をさせられた。正社員でコピー室に入れられた者は榊以前には存在せず、また榊のように所属以外の他部所の補助的、雑務的業務を日常的にさせられた者はいない。これは、製版室には当時他の一労の組合員がいて、榊をなるべく他の組合員や他の従業員から隔離し、かつ、コピー室の隣りの労務管理室から榊の組合活動を監視し易くするためであり、まさに、制裁としてのコピー室配転であって、会社の業務の必要とは無縁のものであることは、その後榊が地労委命令により編集室に復帰して後に玉突き的にコピー室に配転された大和、竹丸がこれも地労委命令により編集室に復帰した後は、コピー室には誰も配属されていないということからも明らかである。

(ウ) また、榊は、右配転命令を争い、一審被告は、昭和五二年四月一三日右配転が不当労働行為に当たるものとして原職復帰の命令(本件命令)を発したところ、会社はこれに従わず、救済命令の取消を求める訴(本訴)を提起した。そこで、一審被告の申立てで広島地方裁判所が昭和五二年七月一九日いわゆる緊急命令を発したので、会社はやむなく同年八月二日榊の机をコピー室から編集室へ移動したが、仕事の内容はコピー室におけるのと同様であった。

そこで、榊は、毎日の業務内容を記載した「業務日誌」をコピーして広島地裁に提出したので、緊急命令違反を暴かれた会社は、一二月二七日、森中績総務部長を先頭に集団で榊を取り囲み、同人をドロボー呼ばわりした挙句これを床に突き倒した。そのため、榊は救急車で病院に運ばれ、入院した。

広島地裁は、一審原告が緊急命令にも従わなかったとして、昭和五三年二月七日、会社に対して金一〇〇万円の過料処分を命じ、会社はこれを不服として即時抗告したが、抗告を棄却され同過料決定は確定したので、やむなく一審原告は救済命令に従うこととなった。

しかし、会社はおもてむき榊に業務命令を交付し、漢文問題集の割付を指示したが、これは既に他の社員が処理した仕事で全く不必要なものを再度の過料を免れるために見せ掛けだけを繕うためやらせていたにすぎず、実際には裁判所の命令を無視し、全く編集の仕事をさせようとはしなかった。

(エ) 榊は、前示暴力行為により子供のとき固定手術を受けた腰部を痛め、「左股関節不完全硬直」と診断され、昭和五三年六月より手術のため入院し、同年一二月まで休職のやむなきに至った。

右退院後、榊が編集への復帰を申し入れたが、会社は、「裁判を取り下げてどんな仕事でもしますと一筆書け。いやなら会社には戻さん。」と同人を脅迫する態度に出た。榊はこれを拒否したので、会社は昭和五四年二月一三日またしてもコピー室への勤務を命じた。一労は再度地労委に命令の不履行がある旨申し立てたので、会社は過料をおそれ、同年五月二日しぶしぶ榊を編集に復帰させた。

その後榊が現在まで編集で行っている業務は、コピーや大学入試問題を紙に貼りつけて整理するなどの単純雑務である。中でも、昭和五四年九月から五七年三月までの長期間指示された「新聞切り抜き」は、単に記事を切り抜いて紙にはりつけ、それをダンボール箱につめるだけで、編集の資料として活用されることもなく、何十箱ものダンボール箱は、そのまま物置に運ばれ、昭和五八年六月他の不用物とともに古紙回収業者に引き渡されたのである。

(オ) また、緊急命令により榊が編集室に戻って以来、同人は次長付とされ、石井次長、吉永課長、崎重課長と順次管理者は変わったが、コピーや資料整理などの仕事は、それぞれの教科担当者が右管理者のところへ持ってきて、右管理者に命ぜられて一々本社のコピー室に出向いて仕事をし、上司から仕事を与えられないときは、自分の席でじっと待っているという状態である。榊が仕事のことで担当者と直接話をすることは禁止され、禁止違反に対しては暴力を使って制止した。榊が一労以外の他の従業員と口をきくことも、あいさつも交せない状態となっている。

以上のとおりの会社の一労ないし榊に対する組合嫌悪の態度ないし執拗な攻撃からして、榊に対する本件懲戒処分及び配転は、会社が同人の一労の組合員(役員)としての活発な活動を嫌悪してなした不利益取扱いであり労組法七条一号の不当労働行為であることは明白である。

三  証拠

原審及び当審記録中の各書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

一  一審原告及び一審被告が原判決の取消を求めている部分に係る一審原告の請求に対する当裁判所の認定、判断は、次のとおり改め、附加するほかは、原判決説示(原判決二〇枚目裏二行目(85頁1段13行目)から同二五枚目表三行目(86頁1段27行目)まで及び同三二枚目表七行目(87頁4段29行目)から同三七枚目表八行目(89頁1段22行目)まで)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二〇枚目裏二行目の「第一」(85頁1段12行目)を「第三」に、同三二枚目表七行目の「第二」(87頁4段29行目)を「第四」に改め、同二〇枚目裏一行目(85頁1段11行目)の次に改行のうえ次のように加える。

「第一 争いのない事実

一審被告委員会は、一労を申立人、一審原告を被申立人とする広労委昭和五〇年(不)第一号不当労働行為救済申立事件について、昭和五二年二月一九日原判決別紙第一の命令書のとおり第一命令を命令したこと、同じく、同一当事者間の広労委昭和五〇年(不)第三号不当労働行為救済申立事件について、原判決別紙第二の命令書のとおり第二命令を命令したことは、いずれも当事者間に争いがない。

第二 会社と一労との対立

一 いずれも成立に争いのない(証拠略)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  一労の結成

労働組合結成前の会社においては、賃金、就業時間、有給休暇、生理休暇などの労働条件が低く押えられ、同業他社や同規模の地場産業に比較しても賃金等が低く、加えて、会社業務は編集と営業とに分かれていたとはいえ、教科書の採択の時期等営業が忙しいときは、編集担当者であっても、出向と称して営業応援のために営業所等への長期出張を命ぜられることも多々あるなど、かなり厳しい勤務条件であった。

このような勤務条件に対し特に若年層の従業員の間に不満が高まり、労働組合結成の動きが生じ、日本出版労働組合協議会(後に日本出版労働組合連合会に改組されたので、以下その前後を通じて「出版労連」という。)の指導を得て、遂に昭和四八年九月一六日一労が結成された。そして翌一七日には会社に対し労働組合結成の通告をなした。

昭和四八年一二月一日当時、組合員数は六一名(本社五一名、営業所等一〇名で、その組織率は約四一パーセント(本社五九パーセント)であった。労働組合の構成員は、勤続年数が比較的短く、各職場の地位も比較的低い若年層の者が主体で、係長は入っていなかった。

2  一労に対する会社の態度

会社は逸早く一労結成の動きを察知し、組合結成前新たに労務管理課を設け森中績を課長に任命して組合対策に当たらせることにした。

森中は、一労結成の日の夜(組合結成通告の前夜)、青木三郎(組合結成大会において書記長に選任された)方を訪ね、同人から組合結成に関する情報を得ようと種々質問し、その際青木及びそこに居合わせた高瀬均(副執行委員長に選任)、中山晋一、下坊和幸(いずれも執行委員)に対し、出版労連は過激な団体であるからこれに加入することは好ましくないし、出版労連が中に入ることは会社の経営上からも問題があるなどの意見をかなり長時間にわたり強調し、果ては「辞めることを覚悟でやっているのか。つぶそうと思えばいつでもつぶせる。外部団体を連れてくるな」等と威迫した。

一労は翌一七日会社に対し組合結成の通告をなすと同時に賃上げ等の労働条件の改善を内容とする一七の要求事項につき団体交渉の申入れをしたが、会社は一労の委任を受けた出版労連の役員が同席していることを理由に団交拒否の態度を示したので、やむなく出版労連の者を退席させた。会社のこのような出版労連拒否の態度はその後も続いた。

3  第二組合(全労)の結成

昭和四八年一〇月一四日西木和民(当時商品管理課係長)が中心となって、年配の従業員、下級職制(係長、主任、班長等)を中心とした社員協議会が結成され、更に同年一一月四日、右組織を解消して全労(西木が初代書記長)が結成された。会社はこれを歓迎し、後(昭和四九年七月二二日付)西木は労務管理課長に任命され、労務管理を担当することとなった。全労は、ことごとく一労の組合のあり方や組合活動のやり方を非難し、ビラ等でこれをひぼうし、一労と鋭く対立して両者は敵対関係にあった。

4(一)  会社の本社は広島市にあり、昭和四八年一二月一日当時その組織は総務部(総務課、労務管理課、電算室、経理課)、出版部(編集課、営業事務課、商品管理課)、通信教育部(指導課、教務課)、製版室から成り、東京、京都に支社が、札幌、仙台、北関東、名古屋、広島、福岡に営業所が、新潟、小山、熊本、松山に分室がそれぞれ置かれていた。本社の主たる業務は管理業務のほか教科書、副教材、学参図書などの出版と通信添削であるが、営業所等に所属する従業員はそのブロック内に散在する高校の教員に個々面接の上、会社発行の高校用教科書等の内容を説明、宣伝の上、受注をとって本社に連絡をするという仕事であるから、その職務に必要な知識、経験、労働の態様、時間を異にし、別異の職種とみられるような較差があった。

(二)  ところが、会社は、オイルショックによる資材の値上がり等により生じた余剰人員の人員配置の合理化の必要を口実として、昭和四八年一〇月一三日、一労の組合役員、執行委員ら五名に対し、本社から営業所へ配転する旨の命令を発した。すなわち青木書記長及び河島節夫、忌部芳郎(共に執行委員)は名古屋営業所へ、新保憲一は東京支社へ、太田俊美は仙台営業所へと各配転命令が出された。その際増田昭二常務は青木書記長を呼び「右命令に従わなければ、青木、新保は解雇、河島、忌部は倉庫に配転する。」旨述べた。配転命令を受けた者の中には、青木書記長のように、個人的事情から右命令に従い名古屋営業所に赴任(但し、将来に希望を失い、昭和四九年一二月に退職)した者もあったが、河島はこれを拒否したところ、昭和四八年一一月一日倉庫係に配転され、昭和五二年三月まで倉庫で肉体的労働に従事したが健康を害して退職し、忌部はこれを拒否したところ、昭和四八年一一月一日倉庫係に、昭和四九年一月八日京都支社に、昭和五〇年一〇月一七日名古屋営業所に配転され、昭和五一年一月退職し、太田はこれを拒否したところ、昭和四八年一一月一日倉庫係に、昭和四九年一月八日福岡営業所に、昭和五〇年四月名古屋営業所に配転され、同年八月退職し、新保はこれを拒否したところ、昭和四八年一一月一日倉庫係に、昭和四九年一月八日松山分室に配転され、昭和五〇年三月退職した。

(三)  高瀬均(当時、一労副執行委員長)は、昭和四九年一月一六日広島営業所勤務を命じられ、小林和俊(執行委員)は、同年一月八日札幌営業所への配転を命じられた。そこで、同人らは広島地方裁判所に右配転命令が不当労働行為にあたり無効であるとしてその効力を仮に停止する旨及び賃金仮払の仮処分申請をしたところ(同裁判所昭和四九年(ヨ)第八四号事件)、同裁判所は、同年四月八日各配転命令が不当労働行為にあたり無効であるとしてその申請を認容した。

(四)  その後も、会社は一労に所属する者に対し次々と配転等を命じたり労働組合からの脱退を勧奨するなどしたので、一労の組合員の中には、将来の希望を失い退職する者が相次ぎ、また一労を脱退して全労に入る者も多くなり、一労組合員の員数は漸減していった。

右各配転は本社と営業所等との労働条件の著しい較差を懲罰的、報復的な配転に利用し、会社が嫌悪する一労所属組合員を本社から排除し、労働の態様、時間からして組合活動が困難な営業所等に配転し、これを拒否する者には報復的に事務職と職種を異にする倉庫などの肉体労働的業務に再配転し、組合を弱体化しようとする意図のもとに行われたものであることは明らかである。

5  組合活動に対する懲戒処分

昭和四八年一〇月一日の朝礼の席で、増田常務が従業員に対して一労の活動を誹謗する発言をしたので、その場で直ちに一労所属の組合員らがこれに抗議したところ、会社はこれを全従業員の面前で行った計画的かつ集団による業務妨害、業務上の指揮命令無視の言動であるとして、同月二〇日付で執行委員一三名を譴責処分とした。

以後も、会社は、団交の際の一労組合員の発言、一労による不当配転抗議行為、職場集会、増田常務等に対する面談要求、死亡した一労組合員の葬儀参加のためのストライキ、腕章、鉢巻、ワッペン着用行為、ビラ貼り等が、業務妨害、無断職場離脱、無届集会、面会強要、職場秩序違反等に当るとして一労の組合役員、執行委員、組合員らを次々と譴責処分、出勤停止処分とすることを繰り返した。

これらの一労ないしは同組合所属の組合員らの行為の中には、正当な組合活動として許される範囲を逸脱するものとして懲戒処分を受けてもやむを得ないもの(ビラ貼りなど)もあるが、右会社の処分の中には、朝礼の際の抗議行動や、増田常務に対する面会要求あるいは組合員の葬儀参加に対する処分など相当性を欠くことが明らかな処分も含まれ、その他の組合活動についても、会社は本来組合との団交で解決すべき問題についても、組合との団交を避け、団交に入っても誠実に交渉しようとせず、一方的な懲戒処分をもって一労を制圧し、自己の経営方針を強行実現しようとする態度に終始し、他方、一労もこれに対抗するのに連日のようなストライキ攻撃をもってしたため、さらに懲戒処分を招くという悪循環をもたらし、一労と会社との対立が益々拡大し、深刻化した。

6  高瀬均、小林和俊は、前示広島地方裁判所の発した仮処分に従い会社に復帰し、高瀬はもとの編集課英語係に、小林は同じく生物係にいちおう机が与えられた。しかし、同人らの身分は前例のない総務部長管理とされ、総務部長の直接の監督のもとに、従前は、出版部、通信教育部所属の者の中から臨時応援的に出て従事していた名鑑の改訂作業や、従前は臨時作業員、嘱託が行っていた通信教育部の教材発送、倉庫業務に常時従事させた。

7  その後、昭和四九年九月一三日、会社は高瀬及び小林に無断欠勤、無断遅刻、無断職場離脱等の行為、職場秩序紊乱、業務妨害等の行為があったとして同人らを懲戒解雇処分に付した。同人らは、右解雇は不当労働行為に該当するとしてその効力を争い、昭和五一年、従業員地位確認請求訴訟を広島地方裁判所に提起した(同裁判所昭和五一年(ワ)第二三号)ところ、同裁判所は昭和五六年五月二八日、同日らの不当労働行為の主張を認めて同人ら勝訴の判決を下した。会社は、これを不服として控訴、上告したが、いずれも棄却され、右懲戒解雇処分が不当労働行為により無効であるとの判決が確定した。」(ママ)

8  右のような会社と一労との間の一労結成直後からの対立抗争により一労が会社に要求した昭和四九年の春季賃上げ及び夏季一時金の支給についての団体交渉も約四か月にわたって開かれなかった。」

2 原判決二〇枚目裏七行目の「一七号証」(85頁1段14行目の(証拠略))の次に「、当審における証人小林和俊の証言」を、同八、九行目の「本件をめぐる労使事情」(85頁1段16~17行目)の次に「の(2)」をそれぞれ加え、同二一枚目表一行目の括弧内の「但し」(85頁1段21行目)から同二行目の「右5についても」(85頁1段22行目)までを「但し、右5については」に、同二三枚目裏九行目の「八名(丸岡智恵子を除く)」(85頁4段20行目)を「九名」にそれぞれ改め、同二四枚目表三行目の「しかし」(85頁4段27行目)から同二五枚目表三行目までを次のように改める。

「 一審原告は、会社の事業内容に照らし、短大卒と中卒とで給与の差を設けることは何ら不合理ではないから、仮に旧基本給において丸岡智恵子の給与と同年令の短大卒の従業員との給与の較差がほとんどなかったとしても、新たな給与体系において二五〇〇円の差を設けたことは何ら不当視するには及ばないところ、会社は一労との間で合意に達した旧基本給を新給与表へあてはめる方式に従って丸岡智恵子の新給与額を算定したところ五九五二〇円となったが、直近の新給与表上の金額は六万円であるので同女の新給与を六万円と決定したもので何らの不当差別ではない旨主張する。

なるほど、学歴の異なる同年齢の者がたまたま、同種、同質、同一の労働に従事している場合であっても、学歴差による一般的な能力、知識、経験等の差を考慮して多少の較差を設けることは、その較差が合理的範囲内にとどまる限り、会社の人事政策ないしは労務政策上合理性があるものとして直ちに労働基準法三条の同一労働、同一賃金の原則に背馳するものとは断じ難い。

しかし、前掲乙第二六号証、証人小林和俊の証言によれば、従来会社は能力主義を標榜していて、少なくとも短大卒以下の女子従業員については、年齢、経験等による較差は別として、学歴による較差は設けていなかったこと、現に丸岡智恵子は高校中退であったが同女は美術関係の才能を評価されて中途採用され、同年齢の短大卒の女子従業員と同一の給与を支給されていたことが認められるのであるから、新給与表のもとで新規採用をする場合とは異なり、特段の事情がない限り、同女の新基本給を決定するについては、たとい学歴差があっても、旧基本給が同一であって、同一の成績査定を受けた者と新基本給が同一になるよう定めるのが相当である。しかも、前掲甲第三号証、第四号証、第一一号証、証人小林和俊の証言によれば、会社においては、新給与表を現に会社に雇われている従業員らに適用して新基本給を定めるについては、<1>学歴別に初任給を定めて一定の勤務年齢ごとに増額する新給与表をそのまま適用する方式のほか、これでは中途採用者や役付の者には不利となるため<2>新給与表と新賃金傾向値表とを用いる方式及び<3>役職者については更に有利になるよう(基本給+役付手当+四〇〇〇円)に一〇〇分の一二四を乗ずる方式(いずれの方式についても右により算出された額について成績査定をした上で決定する)を補充的に設け、この三方式のいずれかの方式のうちもっとも当人に有利な方式により新基本給を決定する旨一労に対しても言明し、現に全労所属の従業員等に対してはそのとおりなされていることが認められ(一審原告は<3>の方式が原則であり、それによって丸岡智恵子の新基本給を計算すると前示のとおりとなる旨主張し、当審証人森中績(第二回)の証言中には右主張にそう部分があるが、一審原告が自認するとおり、林敏子の新基本給は<3>の方式ではなく<1>の方式によって決定されていること及び(人証略)に照らして措信できない。)、従って、丸岡智恵子は前示のとおり中途採用者であるから、<2>の方式によれば、成績査定をしてもその新基本給は六万二五〇〇円となるべきものと考えられることに照らせば、同女について、旧基本給は同額であり、同一査定であった者より二五〇〇円低い新基本給を定めたのは明らかに不合理であって、会社の主張するような学歴差を考慮してなされたものではなく、前認定のような会社の一労に対する敵対的態度、会社がそれまでに一労所属の組合員に対してなした数々の不利益処分等の背景事情を併せ考慮すると、他の八名の場合と同様に、同女が一労の組合員であることを決定的理由としてなされた不利益取扱いと認めるのが相当である。」

3 原判決三二枚目表九行目から同裏一行目の「一四号証」(88頁1段1行目の(証拠略))までを「成立に争いのない甲第七三号証の一、二、第七六号証の一ないし六、第八〇号証の一、二、第八一号証、乙第四三号証ないし第五三号証、丙第六八号証、原審一二号事件証人増田昭二の証言によって真正に成立したと認められる甲第七八号証、第七九号証、第八五号証、原審第九号事件及び第一二号事件における証人榊敏正の各証言」に改め、同五行目の「できる」の次に「(但し、4については後記認定のとおり裁判所の認定は細部については異る)」を加える。

原判決三二枚目裏九行目の「しかし」(88頁1段14行目)から同三三枚目表七行目(88頁1段25行目)までを「しかし、榊が右原稿を故意に欠落させたことを認めるに足る証拠は皆無であるところ、成立に争いのない甲第六号証(就業規則)によれば、一審原告会社の就業規則五六条の五号には「故意に業務の能率を阻害し、又は業務の遂行を妨げたとき」とあるから、単なる過失により原稿を欠落させたに過ぎない榊の右行為は会社の就業規則上の懲戒事由に該当しない(もっとも、同条の一四号には「前各号に準ずる程度の不都合な行為をしたとき」と規定されているから故意に準ずるような重大な過失による仕事上のミスについては懲戒事由にあたると考える余地はあるが、編集作業の過程においてはこの種のミスはある程度避け難いものと考えられること、前掲乙第五〇号証ないし乙第五二号証、前掲証人榊敏正の各証言によれば、本件の場合ゲラ刷りが出来た段階で榊自身がミスに気付いて上司に申し出たことにより出版、発送前に補正がなされ、結果的にはせいぜい一、二日の発送の遅れで済んだことが認められるところ、これらの事情を併せ考えると、同人の過失及びその結果はさほど重大というにはあたらず、従って同人の前示ミスは、前示一四号の懲戒事由にも当たらないものと解するのが相当である。)。しかし、編集作業上のかかるミスは不可避であるといっても、その結果は会社の円満な業務遂行を阻害し、場合によっては会社の名誉、信用を低下させるおそれもない訳ではなく、現に前掲乙第四五号証(崎重敏幸供述調書部分)、乙第四九号証ないし第五二号証(増田昭二供述調書部分)によれば、現に本件補正作業のため、他の作業に従事中のフレッシュエイジ編集担当者らを集めて右補正作業に当たらせるのを余儀なくさせたり、雑誌の発送が多少遅れる等、他の従業員に迷惑を及ぼし、会社の業務に与えた影響も皆無とはいえなかったことが認められるのであるから、会社としては、かかる仕事上のミスをできる限り防止する方策の一つとして、労働契約ないし雇用契約上従業員に対して有する業務上の指揮命令権ないしは会社の経営権の作用としての企業秩序維持権に基づき、当該ミスを犯した従業員に対して、事の顛末を報告させ、ミスの原因を明らかにし、将来同じような過ちを繰り返すことのないよう反省を求め、かつ反省の実を示すためこれを文書として提出するよう求めることは当然許されるところである(もっとも、一審原告会社の就業規則上懲戒処分としての譴責が「始末書をとり将来を戒める」ものとされているから、前示文書に懲戒処分としての譴責と紛わしい「始末書」という名称を用いるのは誤解を生ずるおそれがあり好ましくない。)。従って榊が前示ミスに対して会社から「始末書」の提出を求められたのに対し正当な理由がなくこれを提出しないことは、形式的にはいちおう懲戒事由の一つである前示就業規則五六条一二号の「業務上の指揮命令に違反したとき」に該当する。」に改める。

原判決三三枚目表八行目の「出題文」(88頁1段27行目)から同裏一行目の「認められない。」(88頁2段1行目)までを「出題文及び解答原文(証拠略)と改変後のゲラ(証拠略)とを比較してみれば明らかな如く、榊としてはもっぱら表現の簡潔化を意図してなしたにすぎないものと推察され、何らかの他の邪な意図をもって修正をなしたものとは到底認められないが、結果としてはやらずもがなの修正であって右修正が是非とも必要であったとは認められない。」に、同裏三、四行目の「ものではないと考えられる。」(88頁2段4~5行目)を「ものではないから、たとい修正が発見されずそのまま印刷されてしまったとしても、問題作成者が勝手に原稿を改変したことに対して機嫌を損ね、そのため著者と会社との信頼関係が破壊されて会社の業務や信用に悪影響を及ぼすことにもなりかねないとか、通信教育の受講者が誤った知識を与えられてその結果会社の名誉、信用が害されるおそれがあるとは到底認められない。」にそれぞれ改め、同四行目の「また」(88頁2段5行目)の次に「、一審原告は、誤字、脱字等の誤り以外の点については、たとい編集担当者が内容が不適切と考えたとしても、筆者や上司の承諾ないし許可を得てからするよう指示されていた旨主張し、当裁判所も、内容にわたる部分についてはいわゆる買取原稿の場合であっても筆者の承諾かあるいは少なくとも上司の了解を得たうえで修正するのが編集担当者の常識ではないかと思料するが、」を、同行目の「書き替えにつき」(88頁2段6行目)の次に「右のような指示がなされていたかどうか、更には指示があったとしても、」を、同三四枚目表二行目の末尾(88頁2段19行目)に「従って、榊の著者原稿の改変行為は、一審原告会社の就業規則の懲戒事由には該当しないものというべきである。」をそれぞれ加える。

原判決三四枚目表四行目の「前掲」(88頁2段22行目の(証拠略))から同七行目の「によれば」(88頁2段22~23行目)までを「前示のとおり、従業員にいわゆる不始末があった場合それが懲戒事由に該当しない場合であっても、会社はその業務に対する指揮命令権あるいは企業秩序維持権に基づき、その不始末を犯した従業員を戒め、不始末の反復を防止するため、文書をもって不始末の顛末を書かせ、原因を糾明し、二度と不始末を犯さないよう注意を喚起することは当然に許されるところであり、これを正当な理由なく拒否したときは、一審原告会社の懲戒事由の一つである「業務命令に違反したとき」にいちおう該当するというべきである。而して前掲乙第四七号証、成立に争いのない甲第一〇七号証の二、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第七七号証の一ないし六、第一〇七号証の一によれば」に改め、同一〇行目の「いること」(88頁2段26~27行目)から同三五枚目表三行目の末尾まで(88頁3段16行目)を「いることが認められる。しかし、右甲第七七号証の一ないし六、第一〇七号証の一、二、成立に争いのない乙第四三号証ないし第四五号証、第五〇号証ないし第五二号証、丙第六二号証ないし第六七号証、第一六三号証ないし第一六六号証、前掲証人榊敏正、当審証人大知純子の各証言によれば、一審原告会社においては、榊の本件校正ミス前には、編集作業上のミスをとがめて始末書を提出させた事例は皆無であると認められること、前認定のとおり榊の前示行為は印刷前に気付いて補正がなされさほど会社の業務に悪影響を及ぼしていないことが認められ、しかも右証人榊敏正の証言によれば、同人がその提出を強く拒否したのは、会社側が榊の上記所為(原稿の欠落及び改変)が就業規則違反の行為に該当するとして就業規則五六条に基づき始末書を要求するかの如き言動をしたため、榊としては単なる編集作業上のミスでは懲戒事由には該当しないし、少なくとも原稿の欠落ミスについては会社に対して謝罪したのに、始末書を提出しなければ処分すると威嚇してその提出を強要するのは不当であり、一労ないしその組合員である自分に対する弾圧であると反撥したためであると認められるところ、前示のとおり本件始末書の提出は就業規則上のものではないから、榊が右のとおり提出拒否の態度を示したことについては無理からぬ点があると考えられること、従ってそれにもかかわらず会社がその提出を強く求めこれを提出しない等として同人を出勤禁止の懲戒処分に処したのは、前示の一労と会社との対立関係や一労所属の組合員に対して多数の懲戒処分がなされ、あるいは種々の不利益取扱がなされている経緯や、右のとおり従前編集上のミスに対して始末書を要求された例が皆無であることに照らせば、右出勤停止処分は単に就業規則違反に藉口してなされたもので、その決定的理由は、榊が一労の組合役員として活発な組合活動をしていることを嫌悪して同人又は一労に打撃を与えるためであり労組法七条一号の不当労働行為に該当すると認めるのが相当である。」に改める。

4 原判決三五枚目裏七行目の「前掲一二号甲第一四号証」(88頁4段9行目の(証拠略))を「前掲甲第八五号証」に、同三六枚目表五、六行目の「前掲一二号甲七・八号証」(88頁4段21行目の(証拠略))を「前掲甲第七八号証、第七九号証」に、同裏一行目の「前掲一二号乙第一六号証」(88頁4段30行目の(証拠略))を「前掲乙第五〇号証」に、同一、二行目の「一二号丙四五号証」(88頁4段36行目の(証拠略))を「丙第一一二号証」にそれぞれ改め、同三七枚目表五行目の「労使関係」(89頁1段18行目)の次に「並びにいずれも成立に争いのない甲第九五号証の二ないし五、第九六号証の一ないし五、第九七号証ないし第一〇三号証、第一〇五号証、乙第五〇号証ないし第五二号証(但し、榊敏正供述調書部分に限る。)、丙第一五二号証ないし第一五四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第九三号証、第九四号証、第九五号証の一、丙第一四八号証、第一五〇号証、原審一二号事件証人榊敏正及び当審証人大知純子の各証言によって一審被告補助参加人ら主張のとおり認められる本件配転命令後の榊に対する会社の態度、処遇」を加える。

二  以上の次第で、一審被告の発した第一命令及び第二命令中本件各控訴に係る部分は、すべて適法であるから、その取消を求める一審原告の請求はいずれも理由がない。

よって、一審被告が広労委昭和五〇年(不)第一号事件について昭和五二年二月一九日付でした命令の主文第1項のうち丸岡智恵子に関する部分を取消した原判決は右の限度で相当でないから、一審被告の控訴に基づいて原判決中右部分を取消して、右取消に係る部分の一審原告の請求を棄却することとし、また一審原告の本件控訴は右のとおり理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 篠清 裁判官 宇佐見隆男 裁判官 難波孝一)

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